(引用:『平野啓一郎公式サイト』より)
どーも。異様に腰が痛くてコルセット購入を検討中、公平です。
最近やっと、平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』を読みました。
以前、「アメトーーク」でピースの又吉さんやオードリーの若林さんが紹介していて、ずっと前に購入して積読本になっていた恋愛小説です(笑)。
今日は、そんな大人のための恋愛小説『マチネの終わりに』についてご紹介します。
【目次】
【『マチネの終わりに』について】
あらすじ
まず簡単にですが、『マチネの終わりに』がどういう話なのか、物語のあらすじを、「特設サイト」より引用します。
物語は、クラシックギタリストの蒔野と、海外の通信社に勤務する洋子の出会いから始まります。初めて出会った時から、強く惹かれ合っていた二人。しかし、洋子には婚約者がいました。やがて、蒔野と洋子の間にすれ違いが生じ、ついに二人の関係は途絶えてしまいます。互いへの愛を断ち切れぬまま、別々の道を歩む二人の運命が再び交わる日はくるのかー
中心的なテーマは恋愛ではあるものの、様々なテーマが複雑に絡み合い、蒔野と洋子を取り巻く出来事と、答えのでない問いに、連載時の読者は翻弄されっぱなし。ずっと"「ページをめくりたいけどめくりたくない、ずっとその世界に浸りきっていたい」小説"を考えてきた平野啓一郎が贈る、「40代をどう生きるか?」を読者に問いかける作品です。
目次
- 第一章 出会いの長い夜
- 第二章 静寂と喧噪
- 第三章 《ヴェニスに死す》症候群
- 第四章 再会
- 第五章 洋子の決断
- 第六章 消失点
- 第七章 彼方と傷
- 第八章 真相
- 第九章 マチネの終わりに
章ごとにきっちりストーリーがまとまっていて、毎週ドラマができるのではないかと思うくらいです。
第一章から第四章までは「出逢いから決断」まで、第五章と第六章は「恋愛の急展開」、
そして、第七章から第九章までは「互いの人生と幸せ」について描かれている印象です。
あくまで、個人的なざっくりとしたまとめです。
また最終章で、本当に「マチネの終わりに」という曲をかけながら物語を読むと、感涙します(笑)。
【マチネの終わりに】幸福の硬貨(Münzen des Grücks)ー佐藤雅也(Masaya Sato)
登場人物の人間模様
- 〔蒔野聡史(M)〕
- 38歳。数々のコンサートをこなす天才ギタリスト。独身。
- 〔小峰洋子(F)〕
- 40歳。海外の通信社に勤務するジャーナリスト。海外で出会ったフィアンセがいる。
- 〔三谷早苗(F)〕
- 30歳。蒔野のマネージャー。もともと蒔野のファンで彼のマネージャーを務める。
物語の冒頭では、蒔野と洋子の二人の恋愛の発展の模様が描かれていますが、
お互いの共通点も多く、初めて出会った時から強く惹かれ合っていきます。
やがて、洋子はフィアンセとの関係を断ち蒔野と結婚することを決断します。
しかし、そこに蒔野のマネージャーである三谷が二人の間に入り込み、
物語が複雑に展開していき、どのような恋愛模様になるかが見所です。
『マチネの終わりに』を読んだ感想
キャッチコピーが『結婚した相手は、人生最愛の人ですか?』とある通り、
最初は、ただのありきたりな恋愛小説なのかな〜、ぐらいにしか考えていませんでした。
しかし、読んでみたら、そんなことはありませんでした。
単なる恋愛ストーリーだけではなく、
音楽、テロ、人種、罪、仕事、病気(PTSD=心的外傷後ストレス障害)、嫉妬、家族、理解、人生
などなど、いろいろな要素が複雑に絡み合って物語が進行していきます。
そんな中で、印象に残っているのは「罪」について。
これについて、ドストエフスキーの『罪と罰』を思い出しました。
あまりネタバレになるので詳しくは言いませんが、マネージャーの三谷さんが、とある罪を犯します。
と言っても、そんな重い犯罪というわけではなく、自分の中で裁く罪といった感じでしょうか。
これがあり、周囲から見ると幸せを感じるような状況でも、心の奥底に何か引っかかるものがあります。
ただ、これは蒔野さんにも洋子さんにもありました。
俗に言う、互いの気持ちのすれ違い。
これらは、自分の中のルールにおいて「罪」を裁いているから生じるものです。
それから、「病気(PTSD=心的外傷後ストレス障害)」と恋愛について。
相手を気遣うが故に知られたくない、けれども、苦しい自分を知ってほしいという葛藤…
これについても、大人な恋愛だなぁ、と痛いほど洋子さんの気持ちが分かりました。
それだけではなく、蒔野さんも洋子さんも仕事との兼ね合いがあり、
仕事と恋愛との板ばさみ状態で、必死に、でも美しく生きています。
そんな心の葛藤があるから故、「大人の恋愛」と言うんでしょうね。
「大人の恋愛」って何?
では、「大人の恋愛」って、いったい何なのでしょうか。
もちろん、アラフォーの男女二人の恋愛なので大人の恋愛と言えますが、そういった問題でもないですね。
例えば、若いうちの恋愛は、とかく自分中心になりがちです。
自分の考える通りの相手になってほしい
自分の思い通りに相手を動かしたい
という、いわゆる「見返りありの恋愛」ですね。
しかし、この物語では「自己犠牲を伴う」恋愛というか、「見返りは自分の幸せの後」という恋愛です。
それが「大人の恋愛」と言えば「大人の恋愛」なんですが、さらに踏みいって考えてみます。
このような相手を思いやる気持ちは「大人への恋愛」の第一歩に過ぎず、
お互いの気持ちを素直に伝え合うことが、理解を深めるには大切ではないかと思います。
言ってみれば、「想い」+「行動力」=「大人の恋愛」でしょうか。
世間でいう、建前や常識に縛られて自分を動けなくしてしまっていて、
相手に対して一歩踏み出すことをしなければ、「大人の恋愛」ではありません。
例えば、
「結婚は◯◯歳までにしなければ問題がある」
「◯◯を今でもしているなんて有り得ない」
なんていうのは、所詮、あまた溢れる情報に踊らされているだけです。
日本には、幸い「気遣い」という和の精神があるため、優しい想いを持たれている方が多いですが、「相手に素直に想いを伝える」ことも、「大人の恋愛」への必要条件なのかもしれませんね。
過去は変えられる
最後に、個人的に最も印象に残ったフレーズがあるので、ご紹介します。
人は変えられるのは未来だけだと思い込んでる。
だけど、実際は未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。
過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?
「過去は変えられる」とはどういうことでしょうか?
よく「未来は変えられる」と言いますが、それとは時系列が逆ですね。
つまり、
過去に起こった事実そのものを変えることはできないけれど、その事実に対する意味合いはいくらでも変えることができる
ということなんですね。
個人的な持論なんですが、世間一般では「過去→未来」という時間軸ですが、そうではなく、
「未来→過去」という時間軸で考えると、物事がスムーズにいくような気がするんです。
イメージとしては、「未来=川上」「過去=川下」というような光景を思い浮かべてください。
未来から流れてくる最高の自分が現在を通り過去に流れてゆく…このように考えれば、その当時、あまりにも傷ついたことや忘れたいことでも過去の解釈は変わってきます。
作者の平野さんの「過去は変えられる」に対する考えも面白く、 以下にインタビューの抜粋を載せますので、ご参照ください。
最初は、“変えられる”というより“変わってしまう”という印象でした。記憶というのは意外と安定していなくて、脆いし、忘却するし、何度も思い返しているうちにその都度上書きされているように変わってしまうものだなと。そう考えてみると、逆に言えば、変えることだって可能なんだなと気づいたんです。
◆ ◆ ◆
過去を振り返る時に運命論が無ければ、全部自分の責任なんだろうかとつらくなってしまうし、未来は自分で切り開けると信じられなければ、あまりにも寂しいですよね。その二人の会話のなかでも少し書きましたが、どこまで自分がシステムの一部として生かされていて、どこから自分に自由があるのかという問題は、ハリウッドのエンターテイメント系の映画でもここ最近描かれてきているような気がします。「マトリックス」はその典型ですけど、意外とエンタメの方がそういうことに敏感なのかもしれません。
【まとめ:大人の複雑な恋愛】
いかがでしたでしょうか?
今回は、大人の恋愛小説『マチネの終わりに』をご紹介しました!
大人の複雑な恋愛の形を描く『マチネの終わりに』…いまの自分にとって非常に胸に響くアツい小説でした。
もちろん大きなテーマは「恋愛」ですが、他にも様々な問題提起がなされていて、二度、三度読んでも、新しい発見があり面白い小説だと思います。
そういった意味でも、どの世代の方が読まれても、大変おすすめできる本です。
なかなか、日々忙しくて小説を読む時間を取れない方も多いとは思いますが、
実体験に基づいた大人のほろ苦い恋愛物語を、ぜひ手に取って読んでみてください!
それでは、今回これにて失礼します。
皆様に、心よりの感謝を込めて。
公平